風の子坂を駆けぬけて
知優は言おうとした言葉にとっさに上書きした。

あんまりにも大人びた沙耶の発言に、自分の幼稚さを思い知るようで。


(どうしてそんな簡単に思えちゃうんだろう…。)


何かが違う。

羨ましい。

どれも、これも。


沙耶の気持ちに同意したつもりでいたのに、知優の目には涙がこみ上げる。


自分だけがみんなと違う感情を持っていること。

自分だけが不安を抱えていること。



何よりそれを友達に隠しているということ。


(本当はね、私も、絵書きたかった…。)


そう心の中で呟きながら、涙がバレないように空を見上げた。



風の子坂を上る彼女の足取りが段々鈍る。


今日隣りにいるのが胡桃じゃなく明日香じゃなく、沙耶で良かったと思うのだった。
それだけが今の彼女の救いだった。


「キレイだね、夕焼け。こんな時間に帰るのもいいね」


沙耶は空を見上げたまま呟く。


「うん。これからそうなるのかな」

「だね」



坂を上りきる頃には、少し涼しい春風が強さを増し、どこから来たのか薄いピンクの花びらが、彼女達の前で飛ばされていった。



――――――——――*゜――*゜――



鼓笛隊クラブに正式に入部して1ヶ月。

秋の運動会で発表する目標を掲げ、それぞれ担当パートごとに分かれ、練習に練習を重ねていた。







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