風の子坂を駆けぬけて
「あ、待って待って、みんな止めて。…知優ちゃんだよね。今違うとこ弾いてなかった?」

パートリーダーである6年生の岩佐桜子(いわさ さくらこ)が鍵盤ハーモニカの演奏合わせを止めた。


「はい、ごめんなさい…」

名指しされびくつく知優は、とっさに楽譜に目を走らせる。
確かに今どこを弾いていたのか見失っていたのだ。


「ねえー、ちゃんと覚える気あるの?知優ちゃんだけだよ、合ってないの」

「玲ちゃん、ちょっと言い過ぎ。知優ちゃん、あのね…」


桜子は苛立ち悪態をつく、同じ6年である福島 玲(ふくしま れい)をなだめると、知優の席にいき、今弾いている場所を教えに向かった。


優しく教えてくれる彼女に、申し訳なさが募る。
5、6年生が4年生とペアを組み、マンツーマンで教えていて、知優のペアは桜子でもあった。


「大丈夫大丈夫。えっとじゃあさ、知優ちゃんは今弾かないでいいから、私が弾くとこ見ててくれる?」


周りの雰囲気を悪くしないように必死なのが伝わった。
知優も頷くだけで精一杯だった。




楽しそうに今日のクラブの様子を話す胡桃と明日香。

明るく物怖じしない彼女達はすっかり上級生に気に入られ、順調に過ごしていた。








< 46 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop