風の子坂を駆けぬけて
絵の具セットを片づけると、引き出しの教科書やノートもランドセルにテキパキと詰め込んでいく沙耶。
「ちょっとね、用ができて。急なんだけど」
唯一、沙耶とは口をきいていただけに、早退となると心細さが一気に増す。
知優は椅子から立ち上がり、足早に沙耶の元に駆け寄る。
「ちょっと聞きたいんだけど」
一応念のため、キョロキョロと周りを窺う。
「さーちゃんはさ、くーちゃん達に誘われたんでしょ?出かけること」
「そうだけど…」
「私だけ誘われないなんて、ひどくない?もしかして、嫌われてるんじゃないかな…」
ヒリヒリと痛む胸の内を、知優はすがりつくように言う。
沙耶はランドセルを背負うと、うーんと腕組みをしてふと考える。
「それはないんじゃない?あの時、鼓笛隊クラブの体育館での全体練習の時の、ちゆー脱走事件。あの時だって、くーちゃんもあっちんもすっごい心配してたよ。今だから言うけど…」
そんな訳で沙耶によって、あの時の裏話を初めて知ることとなった。