風の子坂を駆けぬけて
涙の勢いが収まってきたころ、そっと顔を上げると明日香が給食を片づけてくれていた。



野次馬ができ、男子に向かって攻め立てる女子達の中に、


「サイテー!ダサいと思わないの?ていうかさ、早く謝りなよ!」


そう荒げる一番大きな声の主。


それは胡桃だった。



知優と目が合うとすぐさま駆け寄り、自分のハンカチで知優の髪を拭いた。


「大丈夫?本当サイテーだよね」


さっき引っ込んだばかりだというのに、知優はまた涙を零した。


「ちゆー?大丈夫?」

明日香の声もする中で、嗚咽を漏らして泣いた。



二人の優しさはあまりにも胸が苦しく、温かいものだったから。


『ありがとう』

その言葉さえ、今は涙となって溢れ返っていた。






この騒動後、あの嫌がらせしてきた男子も大人しくなった。


休み時間にはいつものように4人で集まって喋ったり、シール交換をしたりと和やかな時間が戻っていた。





2学期もあと数日で終わるこの日は、明日香の席でらくがき帳にみんなで絵を描いていた。


これから彼女達に訪れるであろう、見知らぬ世界へ誘うような新しい風が吹くことなど、誰一人知らないまま。










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