風の子坂を駆けぬけて
恋をしていない時間がない、という程胡桃は恋が大好きだ。
常に誰かを好きでいる。
そして彼女はいつも楽しそうだった。
告白。
それは知優にとってどこか他人事であり、漫画やドラマみたいで、自分にはまるで関係のない世界のように感じていた。
この頃は同じクラス内や隣りのクラスで誰々が告白したとかされたとか、付き合っている人がいるとか、恋に関する噂があちこちで飛び交っていた。
急激に恋愛シーンが身近なものになりつつあった。
まだ胡桃が告白した訳でもないのに、ましてや本人でもないにに、ドキドキと知優の心臓は早鐘を打ち出す。
胡桃の丹羽への告白予告は、まるで補欠のようで、何だか腑に落ちない気もした知優は、明日香が言っていた丹羽への『いい奴』という言葉が脳裏に過った。
(…ねぇ、それってずるいんじゃない?)
それは声に出ることは無く、心の中で留まった。
友達としてちゃんと胡桃を応援したい。
でもそれは、だいちゃんへの告白が成功して欲しいという気持ちからくるものだった。
明日香が抱く丹羽の気持ち。
例えそれが恋ではないとしても、きっと本当の気持ちだ。