風の子坂を駆けぬけて
力加減を誤った知優は、ボールを思いきり横に蹴り飛ばしてまった。


ドカッ


「いてっ」

「あっ!」


飛んでいったボールは、前にいた丹羽の足に的中。
瞬時に青ざめる知優はその場に立ち尽くす。


丹羽はくるっと後ろを振り返り、真っ青な知優と目が合い、光の速さのごとくボールを当てた人を把握。

少々を眉をしかめつつ、ふぅと息を吐くとボールを足で抑える。


(や、やばい怒られる!)


知優はうろたえながらびくびくした。
きっとすごく怒られるんじゃないかと。

ところがそんな想像はすぐに掻き消された。


樋野(ひの)の?これ」

「…う、うん」


絞り出すような微かな声はどうにか彼の耳に届いた。


「はい」

ポーンと丹羽は知優の元へボールを蹴り転がした。

反射的に動いた知優は、どぎまぎしつつボールを足で受け止める。
思いのほか、ソフトな速さだった。


「ナイス」

ぼそっとそう言い放つと、丹羽はすぐにまた自分のボールを蹴り出すのだった。


(え、あれ?褒められた?なんで?私がボール当てちゃったのに)


何がどうなったのか理解できず混乱した知優は、すぐにはウォーミングアップを再開できずにいた。



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