風の子坂を駆けぬけて
「ちーゆー」
ボールを蹴りながら知優の横に来たのは胡桃だった。
丹羽を目で追いかけているせいもあるが、彼女の興味のある物への嗅覚はするどい。
「ねねね、今丹羽君と話してたの?」
「ううん、話してたって訳じゃなくて。ボールを丹羽君に当てちゃって、それでボールを返してもらったんだけど…」
「それで、何か話した?」
「…なにも?」
「またー。知優は丹羽君嫌い?」
「嫌いではないよ」
「うーん。せっかく今年も同じクラスになったんだし、いい加減少しは話したらいいじゃん。休み時間だって勉強会誘ってるのに、いつも絵描いて」
「だって、それは絵描きたいからだから…」
「ふーん。……じゃあ、もう無理には誘わない」
それだけ言うと、胡桃はボールを強く蹴り、前へと走っていった。
随分言いたいこと言うんだなと、顔をしかめる知優。
でも何より、絵を描いてることを指摘されたのが、どうも気に障った。
確かに逃げで描いている時もない訳ではない。
けれど彼女は純粋に好きで描いている時がほとんどだった。
4人で楽しく描いている時だってあったはず。
それも今や忘れられたかのような言い方をされ、ズキンと重く知優の胸を痛めた。