風の子坂を駆けぬけて
胡桃の言い分にも本当は図星だった。
だから苛立ちも胸の中には多少含まれていた。
彼女だって本当は丹羽と話してみたいのだ。
怖気づいて行動に移せないでいることを、一番悔いていたのは本人だ。
(…あんな言い方しなくてもいいのに)
ショックからか悔しいからか、零れることはなかったが、知優の視界は涙で歪んだ。
『ナイス』
表情も変わらずにその一言。
確かに彼から聞いた言葉。
聞き間違いかと疑う程、予想外だった。
驚いたが嬉しい気持ちがの方が勝る知優。
会話になるかと言われれば首をかしげたくなるが、今までにはありえなかったことだ。
このことをちゃんと胡桃に伝えればよかったと、さらに後悔が重なるのだった。
一方で、胡桃は彼女の消極的な性格を長年理解していたはずだった。
なのに、口をついて出てくるのは棘のある言葉や言い方で、このことは自覚はしていた。
心のどっかで自分とは正反対の性格に苛立ちを感じていたのだ。
また恋の相手が知優と一緒にいたことで、より鮮明に明確に嫉妬となって表に出てしまった、分かりやすいヤキモチ。
2人の間で揺れ動く胡桃の恋は、周りをも巻き込む乱気流となって進んでいた。