風の子坂を駆けぬけて
どうしたんだろうと一瞬気にかかもるも、きっと気のせいだと感じた知優は、彼女の表情に答えは求めなかった。

前に、胡桃と明日香が知優を誘わずに2人だけで出かけ、そのことで生まれた気まずい空気を、沙耶が変えてくれた時のことを知優は思い出していた。


(あの時も絵を描いていたっけ…。)


丹羽とのことで、胡桃と再び気まずい空気が流れ始めていたのだ。


沙耶なら何て言うのか、相談しようにもどう切り出そうか考えあぐねていると、先に話題を変えたのは沙耶の方だった。



「もう来年中学だよー。そうこうしているうちに、健君誰かと付き合っちゃかもよ?」

「えー、それ脅し?」

「あははは、物騒なこと言ってんじゃないよ。まじで言ってんの。心配してるの。あっちんだってさ、その気になればコクりそうじゃん?」


ぴたりと知優の鉛筆の動きが止まる。

「あっちん?え、え、え、さーちゃん、あっちんがたーくん好きなの知ってたの?」

「うん。結構前から。ほら、プロフィール帳にも書いてあったし。あのからかい方とか、もう分かりやすいよね」


知優は沙耶の話を聞きながら、ぽかんと口を開けたまま空に目を向けていた。


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