風の子坂を駆けぬけて
「ちゆー!一緒に帰ろう!」
それは聞き慣れ親しんだ声で、そしてずっと知優が欲しかった言葉。
呼ばれた彼女が振り返ると、そこには急いで階段を駆け下り、変わらぬ笑顔で知優に向かっていく胡桃の姿があった。
今日たまたま習い事が急な休みで何もなかったらしい。
一緒に帰る約束なんて特にしたことがあった訳ではない。
それでも必ず一緒だった。
気づかないうちに、当たり前になっていたのだ。
久しぶりの会話。
彼女が真っ先に話し出したのは、お決まりの恋の話。
だいちゃんへ告白したこと。
それが成功したこと。
付き合うことになったこと。
一つ一つ順を追って彼女は話した。
そして…
「ちゆーに一番最初に報告したかったんだ」
そう胡桃は照れながら言った。
告白が成功したと聞いて当然嬉しかったが、知優が本当に嬉しかったのは、一番最初に自分に報告してくれたということだった。
「おめでとう!くーちゃん」
「へへへ、ありがとうー。あ、まだ誰にも言わないでね!絶対にね」
「もちろんだよ」
「ちゆーも、頑張んなよ!健君」
「あ、うーん、うん」
曖昧な返事する知優に、やれやれと胡桃は肩をすくめる。
想像通りといった反応だったのだ。