風の子坂を駆けぬけて
知優は後ろを振り返り、健の姿が見えないことを確認。
もう探しに出始めたのだろう。
知優は急いですぐ脇の道に入り込んでしゃがんだ。
すると目の前の道を横切る胡桃と丹羽にドキンッと心臓が跳ねあがる。
知優に気づいて振り向いたのは丹羽一人だった。
ぽかんと口を開ける知優の顔は少しだけ陰り、彼女達が向かっていた方向とは逆に走り出したのだった。
身を隠すよりも彼らとの居場所を遠ざけたい、そんなとっさに沸いたわがままな気持ちで。
30分は経っただろうか。
知優は道端の小さなベンチに腰かけていた。
他の観光客を2、3人通り過ぎたのを見たのは10分前のこと。
今は誰の声も聞こえてこなかった。
もうすぐ体験授業の始まる時間だ。
知優はいよいよ焦り始めた。
見つかる心配よりも、戻れなくなるという不安が押し寄せた。
貰ったはずのパンフレットには花畑の地図も書いてあったはずだ。
それも今手元にない。昼食を取った場所に置きっぱなしにしていたのだ。
いっぱい走ったせいで、喉もカラカラに乾き、ひりついた。
急がなきゃと小走りに元来た道に戻ろうとするも、やはり同じような道と景色。