風の子坂を駆けぬけて
不安を抱える中で思い出すのは、先ほど見かけた胡桃と丹羽の姿。
胡桃には、“だいちゃん”という彼氏ができたのだから、余計な心配などいらないはずなのに、知優は何だかそわそわして落ち着かない気分だった。




その頃、集合場所の一部ではざわついていた。



「ねー、ちゆーまだ戻ってこないの?」

「迷ったんじゃない?私だって道分からなくなって焦ったもん……」

明日香と胡桃がおろおろと不安の色を顔に滲ませた。


「ちょっと健!ちゃんと探した?何であんたが先に戻ってくるの?鬼なんだからさ、責任取って最後まで探すべきじゃん」

明日香が苛立ちをもろにぶつける。

「探したよ!でも全然見当たらなくてっ。……ほんと、どこまで行ったんだろう」

いつになく顔を強張らせる健。言いだしっぺなだけに居ても経ってもいられず、つい地団駄を踏む。



「3班ー!いたいた。点呼確認まだだけど、もしかして全員集まってないの?誰が居ないの?」


担任の先生が胡桃達の元に来て、彼女達は顔を見合わせて口ごもった。


「あの、樋野さんがまだっ……」

「ええ!樋野さん?」

「俺、探してきます!」



みんな俯き、先生に問いただされそうになる中、丹羽は勢いよく花畑へと向かって走りだしたのだった。



そんな彼の駆けていく後ろ姿に驚く胡桃達。

思ってもみない、彼の勇気ある行動だっただけに、胡桃と明日香は互いに顔を見合わせると「かっこいい」と一緒に呟いていた。






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