風の子坂を駆けぬけて
僅かに浮かぶ雲があるだけの、澄み切った青空の下を黙々と歩く。
ちょっとだけ気まずい空気。
それでも2人の間に流れる、優しい空気も確かに感じていた。
数歩先を歩く彼の背中を眺めながら、知優は胸がいっぱいになっていた。
静かな時間。
爽やかな秋風。
綺麗な青空にコスモス畑。
2人しか居ないこの場所。
そしてこの気持ち。
特別な何かを感じるにはまだ早いようにも思えたが、どうしようもなく、過去最大の胸の高鳴りで満たされていた。
そんな矢先、ふいに振り返った丹羽は、ぐいっと知優の手首を掴んだ。
あまりにも唐突で心音も爆音になる。
しかし彼はの顔は真剣であった。
「え、なに?」
「少し走ろう」
そう言って、手を掴んだまま走り出したのだった。
掴まれた手首の強さと熱に、頭がぼーっと麻痺しそうになる知優。
迷子になってちょっとした騒ぎになっていることも、頭の隅っこにおいやってしまうくらいに。
視界に入るコスモス畑と青空のコントラストは、本当に綺麗で鮮やかで、大げさかもしれないけど、一生忘れたくない景色と気持ちだと噛みしめていた。