風の子坂を駆けぬけて
その日の夜、女子男子それぞれ3つの班ごとに宿泊部屋は別れており、一部屋10人程で泊まることとなった。
22時も回り就寝時刻も過ぎた頃、部屋では暗がりの中ひそひそと、でも楽しげな声で賑わっていた。
それもそのはずあの後からずっと、みんなの話題は知優と丹羽の熱愛スクープで持ちきりだったのだ。
隣のクラスだって周知だ。
「ねーねー、本当のところはどうなの?」
「王子が助けてに来たって感じじゃない?」
「それー!まじ羨ましいー憧れる」
「だってあの丹羽君だよ!嬉しくない訳ないじゃんね」
知優は周りがはしゃぐ中、だんまりで俯いていた。
何から話していいか、自分の気持ちも今ここでうっかり言える雰囲気ではないように思えて。
「ちゆー、丹羽君のこと、好きになっちゃったんじゃない?」
そう確信をついてきたのは胡桃だった。
胸に抱えていた枕がポロッと落ちる。
「……ま、まさかー」
「えーでもでも、なくはないでしょ?」
問い詰めるのは普段あまり話さない、天然パーマが本当のパーマのように見える、少し大人びた子。
「ドキドキはしたけど……」
「ほらー!やっぱり」
「そりゃするよねー、だって丹羽君嫌いな人いるの?」
当人の口数は少なめだが、羨望の声やら嫉妬の声やらで丹羽の話は尽きない。