風の子坂を駆けぬけて
自ずと意識してしまう知優。

あんなことがあって、あらぬウワサを立てられ、意識しないという方が無理な話だった。


その一方でウワサの本人である丹羽はいたって変わらない様子。

好きな人はいるのか、それは誰なのか、付き合ってる人はいるのか、そして、知優とは付き合っているのか……と。
まるでマスコミの突撃取材のごとく、ほぼ毎日質問責めに遭っているのだ。

しかし、どんな質問でも彼はちゃんと受け答えた。
『好きな人はいない』『彼女はいない』と、はっきり否定していた。


そんな真面目な姿に、ウワサがあっても返って評判は爆上がりで、ファン層が減ることはなかった。




それぞれが抱える思いもあるが、2人の関係に何も無い、といえばそれは間違いだった。



休み時間に知優がいつものように絵を描いていると、健がちょっかいを出しにくることは度々あったが、そこには丹羽の姿もあったのだ。

これは修学旅行が明けてからの変化だ。


「書かせてー」

「ちょちょ、また勝手にー!」


突然やってきてはノートの隅っこに犬やら猫やらうんちやら、適当に落書きしては逃げていく。

健の隣で落書きの絵を見て、丹羽はクスッと僅かに微笑むだけだが、彼の意外な姿にはドキドキして視線を合わせられずにいた。





< 93 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop