風の子坂を駆けぬけて
落書きは正直鬱陶しい。
でも、健ならそんなに嫌でもなかったし、丹羽も一緒なら逆に歓迎してしまいたくなる程。
健が好きだったはず。
ずっと幼稚園の頃から。
なのに、どうして、こんな気持ちになってしまったのか……。
胡桃に突き付けられたあの一言
『丹羽君のこと、好きになっちゃったんじゃないの?』
その言葉は知優の胸の中をを引っ掻き回した。
健のことを嫌いになったわけではない、それでも丹羽のことを意識せずにいられないのも本当で、知優は2人の間でゆらゆら揺れ動いてしまうのだった。
少し前のだいちゃんと丹羽を天秤にかけていた胡桃のようで、そこに嫌悪感を抱いていたことを思い出し、余計に胸に秘めるしか今はできないでいた。
ウワサが収束し始めた頃、丹羽に告白を決行する子が出てきていた。
本気かワンチャンスか様々だったが、それはまるで流行りの一つのようで、運試しかのようにさえ行われていた。
図書委員の当番で居残っていた放課後。
廊下を歩いてくる丹羽が窓から見えた。
明日香は習い事があるため、この日は知優一人で作業をしていた。
しかも丁度図書室には誰も居ない。
(あれ、うそ、こっち来る?)
あたふたしていると、ガラッとドアが開く。
「……」
「……あっ」
上ずった声が出た知優はパッと視線を逸らす。
(きっとまた誰かに告られてたんだろうな…。こんな時間に1人で来るとか。あ、もしかしてこれからここで告白なんてっ…)
などと心の中で捲し立てていると、カウンターに本を差し出す丹羽。