またね、と言って君は僕に背を向けた。
×××
「……なあに、それ」
遠くの空が赤く染まり始めるころ、僕と彼女は石畳の階段を登っていた。
一人分しかスペースのない急斜面。
僕の前を行く彼女はあついあついと愚痴をこぼしながら、時折僕の方を振り返っては言葉とは裏腹に楽しげな表情を僕に向ける。
とつとつ、とつとつと。
思いのほか軽快に彼女は上へ上へと進んでいく。
白いスカートが僕の視界にちらちらと揺れて、思わず伸ばしそうになる手をぐっと握りしめた。
「うん?」
動かす足はそのままに、僕の問いに対して彼女が顔だけをこちらに向ける。
前も見ずにずんずん進む彼女が躓きやしないかと内心ハラハラして、心許ない自分のひょろひょろな両腕を前に差し出しながら目線を彼女の左手に移す。
正確に言えば、彼女の左手に握られている大きなビニール袋の方に。
「ああ、これ?」
言いながらなおも僕の顔をにこにこ笑顔で見つめてくる彼女に、いいからとりあえず前を向いてと訴える。
彼女はからからと笑って、それから心配性だなあと目を細めるとおとなしく進行方向へと向き直ってくれた。
ほっと胸をなでおろした僕は、そうと彼女の問いに肯定する。
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