またね、と言って君は僕に背を向けた。
ようやく最後の一段を登り終えた先に広がっていたのはいくつものお墓だった。
お盆の時期とは少しずれているため、僕ら以外に人影は見えない。
僕たちはいつの間にか追いついてきた赤い空と立ち並ぶお墓を交互に眺めながら、墓地の背面に迫る山の木々が影を作っている一角へと辿り着いた。
そこには他のお墓と大して変わらない、何の変哲もない墓石が建っていた。
「ここね」
「うん、ここだね」
ここに来てやっと僕は彼女の隣に並んで立つ。
二人で首肯して、一度後ろを振り返ってみた。
そこには先ほど彼女が愚痴をこぼしながらも登りきった石畳の階段や、人通りの少ない田舎道、ソーラーパネルの並ぶ家々の屋根、そしてもっと遠くには夕日に沈む山々やきらきらと光を反射する海までもが見渡せた。
「きれいだね」
「存外僕はここが気に入ったよ」
僕のその言葉に彼女は少しだけ寂しそうに笑っていた。
僕は誰よりも彼女の笑顔を知っているけれど、その笑顔が彼女自身を守るためのものだということも知っていた。
「じゃーん、花火!」
唐突に彼女がビニール袋から取り出したそれは、夏になるとコンビニなんかでも見かけるかわいらしい花火セット。
しかし彼女の意図を図りかねた僕は怪訝な表情を全面に押し出してそれを見つめる。