またね、と言って君は僕に背を向けた。
「それは見れば分かるけど。それで?」
「いやいや。それで、じゃなくてね。花火があるならそれを楽しむしかないでしょ」
「……まさかここで?」
「もちのろんですわよ」
そう言って彼女はライターやらろうそくやらをお墓にある棚から手際よく取り出す。
そしてあれよあれよという間に僕の手には線香花火が握らされていた。
「えーっと……この状態で僕が言うのもなんだけど、不謹慎じゃない?」
「何言ってんの。私の地元ではお墓で花火は当たり前なんだから」
「いや、でもここは君の地元じゃないし……」
「だから音も光も目立たない線香花火だけ出したんでしょ。いいからやるの」
僕に反論の余地すらも与えず、どっちが長持ちさせられるか競争ねと彼女はふわりと笑った。
その顔は反則だと声に出さずにため息をつく僕。
しかし裏腹に僕の口角は上がっていて、彼女の合図で僕らは線香花火に光を灯した。
僕らは一言も発しなかった。
ただただ各々の灯火を一心に見つめて、その移りゆく様を眺めていた。