金魚鉢には金魚がいない
 ある時、彼女は言った。
 「世の中はきれいだね。みんな産まれてきた理由があると思ってるんだもの。誰にでも希望はあると信じてる。だけどね、目を背けてるだけで、私みたいに誰にも望まれずに産まれて、死んだら悲しむ人より喜ぶ人の方が多い奴もいるんだよ。だけどそうゆうのは例外だから、みんな無かったものにしちゃうんだね。」
 姉はそうやって、劣悪な環境で育った故に卑屈にならざるをえなかった仲間を沢山知っていた。
 そしてそれらの傷が本物である事も。だからこそ、安易な事など言えるはずがなかった。

 ―アリーが死んだら、悲しむ人がいるのは間違いないよ。だって私は悲しむもの。それじゃ足りない?― 
 姉は本心からそう言った。
 彼女は泣きだしそうな顔を歪めて、無理矢理笑って言った。
 「充分だよ。ありがとう、それだけで生きていける。」
 
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