金魚鉢には金魚がいない
 「最後の着信はあなたになっていますが、どうして出なかったんですか?」
 「彼女はあなたに助けを求めたんじゃありませんか?」
 「その時彼女はまだ生きていました。」

 警察の糾弾に姉は呆然と立ち尽くした。

 まるで自分がアリーを殺したように、まるで彼女を見殺しにしたかのように、姉は取り返しのつかない後悔をした。

 ゆかり、ゆかりと慕ってきた彼女は自分以上に孤独である事を姉は知っていた。
 「私にはまだ、瞬ちゃんも、仲間も、親友と呼べる存在がいたけど、アリーには世界で繋がっていられる唯一の存在が私だった。」

 こんな時、姉は努めて明るく話そうとする癖がある。弱すぎて、弱い自分を見せる事が苦手なのだ。
 私は姉の肩を抱き締めた。
  「誰のせいでもない。ゆかりのせいでもない。絶対に。」
 触れた部分がとても熱かった。
  「わかってる。ありがとう。」
 
 姉は泣き笑いみたいな顔をして言った。
 青白い空が徐々に層を成して色濃くなってきていた。時折、南から吹く風が優しく頬をかすめていく。
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