金魚鉢には金魚がいない
姉が出ていく数日前、姉はいつものように深夜過ぎに帰ってきた事があった。リビングで大量の宿題を、答えを見ながら丸写しをしていた私は一瞬ひやりとした。
「親、起きてる?」
いくらかお酒を飲んでいた姉は虚ろな目をしていた。 「どうかな‥多分。」
私は曖昧に答えた。姉は化粧も落とさずに自室に向かい、おそらくはそのまま床についたのだろう。それと殆ど同時に、寝室で寝ていた父親がすごい勢いで出てきてから、隣の姉の部屋に入っていった。
「起きろ!!」という父の怒声と、はじけるような平手の音と、姉の短い悲鳴が静寂を引き裂いて響いた。私は走らせていたペンを止めた。
続いて母も姉の部屋に入り、鈍い叩く音と、泣き叫ぶようなヒステリックな声が断末魔のようにしばらく続いた。母は言った。
「そんなに帰ってきたくないなら、もう帰ってこなくていい!」
私の鼓動と、秒針の音がランダムに響いた。
しばらくの沈黙のあと、「うんざりだよ。この家にいると、息がつまる。」
姉の低い声が、くぐもったように闇に溶けていった。
あの時、姉がどんな目をして、両親がどんな表情だったか、私は知らない。
「親、起きてる?」
いくらかお酒を飲んでいた姉は虚ろな目をしていた。 「どうかな‥多分。」
私は曖昧に答えた。姉は化粧も落とさずに自室に向かい、おそらくはそのまま床についたのだろう。それと殆ど同時に、寝室で寝ていた父親がすごい勢いで出てきてから、隣の姉の部屋に入っていった。
「起きろ!!」という父の怒声と、はじけるような平手の音と、姉の短い悲鳴が静寂を引き裂いて響いた。私は走らせていたペンを止めた。
続いて母も姉の部屋に入り、鈍い叩く音と、泣き叫ぶようなヒステリックな声が断末魔のようにしばらく続いた。母は言った。
「そんなに帰ってきたくないなら、もう帰ってこなくていい!」
私の鼓動と、秒針の音がランダムに響いた。
しばらくの沈黙のあと、「うんざりだよ。この家にいると、息がつまる。」
姉の低い声が、くぐもったように闇に溶けていった。
あの時、姉がどんな目をして、両親がどんな表情だったか、私は知らない。