金魚鉢には金魚がいない
 父と母が姉の自室から出てきて自分達の寝室へ戻る途中、父は私のいるリビングに顔を出した。
 「ごめんな、勉強してるのにうるさくして。」
 父は言って、私は黙った。
 おやすみ、と小さな声でいって、父は寝室へ消えていった。
 どうして私の心配なんかするんだろう。私は勉強なんてしてないよ。学校を平気でさぼるし、仮病も使うし、家ではいい子でも、学校では教師に暴言を吐くような子なのに、私の心配なんかするな。
 
 私はやりかけの宿題のプリントを破ってごみ箱に捨てた。なんだかくだらなかった。答えを丸写しにするのとやっていかないのは同じ事だ。提出する事に意義があるのなら、それは社会通念が間違っている。
 私はベランダに出て、外の空気を吸った。
 星なんて、一つも出ていない夜空の下で、私はしばらく何も考えずにぼんやりしていた。
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