金魚鉢には金魚がいない
 そのころ、姉は高校の出席日数の問題で在籍が危うくなってきていた。その時点で姉はもう、高校に戻るつもりはなかったという。中学のころ成績が乏しかった姉に担任の教師が必死で探してきた市立の高校は、公立の高校よりもはるかに入学料も授業料も高かった。

 そのことに関しての後悔の念はあるのだろうか。。。
結果的には中卒になった姉は、学もなければ資格もない。
 連日教師から寄せられる電話に、母は何度も頭を下げていた。学歴社会が曖昧になっている現代でも、やはり中卒は生きずらい。

 姉は派遣に勤め始めてから、寮に身を置くことにした。1kの、女の子が住むにはあまりに酷な環境だった。

 姉の居場所がわかり、父がその部屋を訪れたとき、父は胸が詰まったという。
 「あんなお風呂もない部屋で、あいつはずっと暮らしていたかと思うと、言葉が出なかった。」姉が実家に帰省したとき、父はそういって表情を歪めた。
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