金魚鉢には金魚がいない

後悔

 姉は一文無し同然で家を出て、ミュージシャンの夢を追う瞬ちゃんの所へ転がりこんでから、アルバイトをして必死にお金を稼いでいたという。
 夜はクラブで遊び、昼間まで眠りバイトへ行く生活を半年程続けていたころに、ある女の子との出会いがあった。

 「その子は自分の名前をアリーといった。どう見ても日本人なんだけど、アリーは名前を捨てたからと言って本名を教えてくれなかったの。」
 彼女は姉を相当慕っていたらしいけれど、家庭が複雑だった事もあって、かなりのリストカッターでもあった。
 「同じ家出人だったから、親近感がわいたんじゃない?いい子なんだけど、私は彼女にはあまり深入りしようとしなかった。理由はないけど、数いる友達にすぎなかったのよね、だけど…彼女には私だけだった。」

 姉は何かを振り切るみたいに今し方吸いだしたばかりの煙草を灰皿にもみ消した。
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