mariage~酒と肴、それから恋~《5》
「もう10年かぁ~、早いなぁ。
月子、入社当初は可愛いだけだったのに、綺麗になったなぁ」


私の動向を知ってくれてたなんて、驚いた。

それに綺麗だなんて、お世辞だと分かっていても嬉しい。

「やだ、それ、セクハラですよ?」


「マジか。ヤバいな(笑)しがないおっさんの独り言だと思って見逃して」

成海さんは両手を合わせる。


「おっさんって…」


「俺もおっさんになっただろ?」

ヘラヘラと笑い、ドリルを手に持ち作業を続ける。ペール缶の底に穴をあけるようだ。


昔はこんなに笑う人だったかな?


整った顔立ちや体型はさほど変わらないけど。

昔はピリッと研ぎ澄まされた感があったけど、ふやけたなぁ。

田舎ののんびりした空気がそうさせるのかな。

その分、笑顔は柔らかく一層深みを帯びた。


「成海さんは、変わらず素敵ですよ」


「マジで。社交辞令でも嬉しいこと言ってくれるね」


「社交辞令は言わない主義なんです」


真面目に返すと、成海さんは少し困ったようにはにかんで、話をそらした。

「仕事、責任も増えて大変だろうけど、あんまり気負いすぎないように、上手く力も抜けよ?
まぁ、もう俺が言うことじゃないけど」
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