mariage~酒と肴、それから恋~《5》
金属を削るドリルの音が響く。

こうやって、上司としての優しい声かけはくれるのに。


「だったら、また上司になって下さい。成海さん、本社に戻ってきて下さい」


本社から何度も戻ってこないかって声がかかってるのに、ずっと拒んでいるらしい。


「今さらな~。のんびり仕事するのに慣れちゃって、今さら本社なんて、ムリムリ」


「そんなことないです!また一緒に仕事したいです。
私が一番仕事できてないときしか見てないでしょう?」

今の私も見て欲しい。


「それは見たいな。でも月子が仕事デキるって噂は聞いてる。
元々デキる子だって思ってたから、主任になったって聞いてもやっぱりって思ったけど」


「嘘。デキなかったですよ。いつも成海さんには迷惑かけてたじゃないですか」


「誰でも最初はできなくて当たり前だよ。でも月子は筋があると思ってた」


私のミスで頭を下げさせたことだってあった。

上司として、私を見放さず、同じことを何度でも教えてくれた。

ただ優しいだけじゃなく、叱ってくれた。誉めてくれた。

だから、成海さんについていきたいと思った。
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