mariage~酒と肴、それから恋~《5》
私は今、自分の部下に対して、成海さんのように向き合えているだろうか。とよく思う。


仕事熱心だった成海さんが、仕事への情熱を失ったままでいるなんて…。

胸が痛い。


「楽だぞ~、ここは。定時で帰れるし。給料減ったけどな。
本社なんて毎日残業してんじゃん」


「そうですね。残業しない日ないです」

確かに、主任になってから、休日出勤も増えたし。毎日仕事のことばっかり。
でも、成海さんが主任のときだってそうだった。


「体調は大丈夫か?無理するなよ?」


「無理しなきゃ、仕事なんてできないですよ」

苦笑いすると、成海さんも苦笑い。

「そりゃそうなんだけどな…」


「実家の親が、残業続きの仕事で体壊すの心配してて、転職とお見合いを勧めてくる始末です」

何気なく言った。

何かしらの反応は欲しかった。


成海さんは穴をあけ終えた缶を手に持ち、眺めながら言った。


「…そうだな、仕事も頑張ってるし、次は結婚だな。
月子もそろそろ女としても幸せになって欲しいな」


淡々と口にする、他人事の感想。心の中でため息をついた。


…やっぱりね。
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