mariage~酒と肴、それから恋~《5》
友好的に見せかけて、上司としての立ち位置は崩さない。


幸せになって、か。

心が軋む。


私の想いの行き場がないよ。


――ねぇ、そんなに…?


「成海さん」


「ん?」


…そんなに、今でも?


「今でも、奥さんを忘れられませんか?」


気持ち的に追い込まれて、口に出してしまってすぐ後悔した。


成海さんは黙り込んだ。

手を止めて、真顔の瞳の奥がゆらゆらと揺れている。


しまった。

言っちゃいけないことだ。

まだ忘れないの?だなんて無神経で大きなお世話。

私の気持ちも言ったも同然。


「…すみません。私には関係のないことですよね。でも…」


言ってしまったから、もう遅い。

私は観念して、ひとつ、大きく息を吸い込んで声を出す。

「成海さんのことがずっと好きでした」


成海さんに驚く様子はなく、立ち上がり、きちんと居直ってから、ためらいがちに頷いた。

「…うん」

知ってる。成海さんの目がそう言った。


「…ですよね」

小さく笑って目を伏せる。

私の気持ち、気づいてない訳ないよね。
ただ言わなかっただけだもん。


しばらくの無言。


気まずさの中、慎重に紡ぐような声が降ってきた。
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