mariage~酒と肴、それから恋~《5》
「たぶん、俺は、死ぬまで忘れることはないよ。
だから、月子には…」


丁寧で、それはそれは優しい声で、残酷で、私の心に突き刺さった。

聞きたくない。


「分かってます。…帰ります」

精一杯声を振り絞り、頭を下げて、うつむいたまま車に乗り込む。


何も聞きたくない。


帰り道、運転しながら涙がこぼれた。


これで終わりかな?

言わなければ良かった?

ううん。ずっと言いたかったことだもん。


「…死ぬまで忘れることはない、か」

ぼそりと呟く。忘れるわけないよね。


私は会ったことはなかったけど、かなり美人な奥さんだったそうだ。

恋愛結婚で、奥さんの体が弱くてお子さんがいなかったから、まるで恋人同士のような夫婦だと聞いたことがあった。


ただ、成海さんの仕事が忙しすぎて、奥さんには寂しい思いをさせてるって。

第一線から退いたのは、仕事を優先させてきたっていう後悔があるからなんだろうな。
って、成海さんの同期は言ってた。


だから、成海さんは本社に戻ってこない。

それが答えなのに。


――バカか私は。

戦うことすら出来ない相手に、勝てる訳がないのに。
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