mariage~酒と肴、それから恋~《5》
「いや、一人だけど」


「一人暮らしで一人燻製って、寂しすぎませんか?」


「あのな、どんなアクティブな趣味を持ったところで、男独りって言ったら、何やっても寂しいって言われるんだよ」

自虐的にヒヒッと笑うから、私もつられてヒヒッと笑った。

「それは、女でも同じですよ」


だったら、私が一緒にいてあげる。

――なんて言えるわけないけど。


成海さんは、10歳年上で、私の元直属の上司だ。


新卒で入社した今の会社で、一番最初に配属されたのが、成海さんが主任を勤める部署だった。

私の指導係をしてくれてた。


成海さんは今でこそこんなボヤッとしてるけど、本来はバリバリ仕事ができる人。

社長にも信頼されてて、うちの会社の出世頭で将来の重役も有望って言われてた人物だった。


スーツ姿で颯爽と走り回って、涼しげな顔して契約とってくる。

かっこよくて、余裕の笑顔で、人望も厚くて、とにかく素敵だった。


成海さんに憧れて、事務服着て社内にいる一般職よりも、自前のスーツ着て社外に出る総合職を目指して、成海さんに付いて回った。

必死に仕事を覚えて、誉めて貰えるのが嬉しくて仕方なかった。


成海さんは、既婚者だった。
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