mariage~酒と肴、それから恋~《5》
だよねーー、かっこよくて、仕事できる人が独身の訳ないよねーー。

ていうか、私の気持ちは恋とかじゃなくて、憧れなの。ファンみたいなものなの。

周囲にも本人にもそう公言してたし、私の他にもファンは多数いたし。


ずっとこのまま一緒に仕事ができるって信じて疑わなかった。


……――入社して1年ちょっと過ぎた、ちょうど今頃の時期だった。


成海さんは突然異動になった。

本社から、こんな片田舎の支店に。


「月子、車の運転で疲れただろ?お茶でも入れようか。家の中散らかってるけど」

よっこいしょと立ち上がろうとする成海さんを「いえ」と制する。

「お構い無く。折角なんで、燻製器作ってるところ見てていいですか?
どうやって出来るのか興味あるし」


「ああ、いいよ」

と、再びしゃがみこんで、ペンチを手に取った。

私が見たいのは、燻製器じゃなくて、成海さんだ。


「燻製器なんてよく自分で作ろうと思いましたね。
難しいんじゃないですか?」


「いや、そうでもないんだ。意外と簡単にできるってネットで見たから」
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