mariage~酒と肴、それから恋~《5》
異動の理由は聞かなかったけど、同僚たちは言われなくても分かってた。

傷心だ。


異動する少し前に、成海さんは最愛の妻を亡くしていた。


成海さんが本社での最後の日。

『元気、出して下さいね』

初めて作った梅酒がちょうど出来上がった頃だったから、梅酒を餞別にお裾分けした。

それまでにも梅酒を漬けるのが趣味だって話はしてて、あげますって話もしてたから。


亡くなったと聞くまで、奥さんが闘病してたなんて知らなかった。

出来の悪い私は泣きべそかきながら残業続きで。

成海さんは、上司としてずっと付き合ってくれた。

早く私が一人前になれるように。


知らず知らずのうちに私は、成海さんと奥さんの貴重な時間を奪っていたのではないか?

後悔と申し訳なさで、一時は会社を辞めようかと思ったこともある。

それを思い止まらせてくれたのは成海さんだった。


成海さんが異動して何ヵ月か経って、新米の時期がきて、突然成海さんからメールがきた。

住所を教えて欲しいって。

梅酒のお礼に、地元で収穫された米と有機野菜を送りたいからって。
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