目覚める度に、傷ついて
「もう少しでデビューだ。楽しみだな」


神崎さんの息があたしの耳元にかかる。


もう少しでデビュー?


そんな話ユメノから聞いたことはなかった。


事務所に入れただけであれほど騒いでいたユメノが、デビューを目前にして黙っているだろうか?


仮に口止めされていたとしても、ユメノならついつい話してしまいそうだ。


「ちょっと……離してください」


あたしは身をよじって神崎さんの手から逃れようとする。


すると、神崎さんは更に力を込めてあたしの体を抱きしめたのだ。


あたしは唖然として天井を見上げた。


神崎さんの手があたしのふとももに触れる。


これは一体なんだろう?


目の前が真っ白になる感覚だ。


あれほどきらびやかだったレッスン場が、今は廃墟のように感じられる。


「デビュー……したいだろ?」


神崎さんの声が耳元で粘っこく張り付いてくる。


同時に体中に鳥肌が立った。


『ユメノは誰かをイジメていないと壊れちゃうから』


奏の声が蘇る。


咄嗟に、あたしは神崎さんを突き飛ばしていた。


神崎さんはドンッと大きな音を響かせて床に転ぶ。
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