目覚める度に、傷ついて
板挟み
レッスン場から転げるようにして外に出て来たあたしを待っていたのは、母親の車だった。


あたしはすぐにその車に乗り込んだ。


「あら、今日は早いのね？　神崎さんからのお話は今日はなかったの？」


運転席の母親は少し眉を寄せてそう聞いて来た。


『今日はなかったの？』


と聞くということは、ユメノは今までにも何度もああした『お話』をされてきたのだろう。


あたしはシートにもたれかかって自分の体を抱きしめた。


今もまだあの男の息が絡み付いているように感じられる。


ユメノはあの男にどこまでされていたのだろうか。


想像するだけで吐き気を感じる。


「ユメノ、どうかしたの？」


「……お母さん、あたしあの事務所やめる」


そう言ったあたしの声はひどく震えていた。


怖かったのだ。


恐怖が今更のように這い上がって来るのを感じる。


咄嗟に突き飛ばす事ができたからよかったけれど、それができなかったら今頃どうなっていたのだろうか。
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