目覚める度に、傷ついて
奏は明という人物の事が好きらしい。


今電話をかけている人物でまず間違いないだろう。


『明』の名前の後ろにハートマークが付けられていることで一目瞭然だった。


好きな相手からの着信。


奏ならすぐにとる事だろう。


だけどあたしは一瞬躊躇してしまった。


あたしは明という人の事を全く知らないのだ。


電話に出てちゃんと会話ができるかどうかわからなかった。


そう思ってしばらく着信を放置していたのだが、スマホは鳴り続ける。


もしかしから明という人も奏の事が好きで、どうしても会話がしたいのかもしれなかった。


家はすぐ目の前に迫って来ていたけれど、あたしは立ち止まって着信に出た。


「もしもし?」


とりあえず、そう声をかける。


『もしもし、奏? 今忙しかった?』


聞いたことのない男の人の声にドキドキする。


低くて、だけど爽やかな印象の声だ。


あたしよりも少し年上なのかもしれない。


「う、うん。でも大丈夫、用事は終わったから」


『そっか。それならよかった。奏、今から会えないかな?』


「い、今から?」


あたしは驚いて聞き返す。
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