目覚める度に、傷ついて
☆☆☆

奏の家を出た瞬間、知っている景色があった。


あたしの家からそう離れていない丘の上だ。


「へぇ、ここが家だったんだ」


そう呟きながら自転車で坂道を下って行く。


丘の上からはあたしの家の屋根も見えた。


昨日あたしは自殺を実行した。


そして目が覚めると奏になっていた……。


よくあるストーリーで考えるとすれば、あたしと奏の魂が入れ替わってしまっているというパターンが浮かんできた。


ひょんなことがきっかけで魂が入れ替わってしまい、そしてひょんなことで元に戻る。


だけどここで問題が起きる。


あたしは昨日自殺しているのだ。


体が生きているのか死んでいるのかわからない。


そんな状況で奏と入れ替わったのだとしたら、奏の魂とあたしの体が死んでしまうという事にならないんだろうか?


そう思うと複雑な気持ちになった。
< 8 / 202 >

この作品をシェア

pagetop