キミの笑顔が見たいだけ。


「しっかし……周りになんもねーな。寒くて凍えそう」


案の定、駅に駅員はおらず改札がポツンとあるだけだった。


駅の周りは真っ暗で、街灯すらない。


ホームにたったひとつだけある小さな明かりが頼りだった。


「うん、なんもないね。反対側のホームに移動しよっ!」


「は?もう帰んのかよ?」


思わず時刻表の前に立つ菜都の顔を覗き込む。


「うん、終点に来てみたかっただけだから」


菜都はそんな俺の顔を見上げながら、にっこり微笑んだ。


なんなんだよ、さっきは頑なに目を合わせなかったくせに。


ズルいんだよ、今さら合わせるとか。


いつもいつも肝心な時に逃げてばかりで、ズルいんだよ……。


けど、そんなお前がどうしようもないほど好きなんだ。


言えない言葉の代わりに、拳をグッと握り締めた。


「雪、積もるかな?珍しいよね、降るなんて」


「……どうだろうな。向こうは降ってないかもしんねーし」


「あ、そっか。そう考えたら、遠くまで来たんだね」


「…………」


「ホワイトクリスマスイブかー。ロマンチックだよね」


「……だな」


「なんかテンション低くない?どうしちゃったの?」


「それはこっちのセリフな」


「えー?なにがー?」


とぼけたように笑う菜都。


なんで、そんなに悲しそうな顔で笑うんだよ。


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