キミの笑顔が見たいだけ。
「菜都は……俺のこと、どう思ってんだよ……っ?」
「好き……なわけ、ないでしょ?だから矢沢君も、いい加減諦めて」
俺以上に、菜都の声が震えている。
「諦めてって……」
言われて出来るなら、とっくに諦めてる。
菜都以外の奴と幸せになるなんて考えられない。
それよりも、死ぬなんて……。
お願いだから……頼むからっ。
ウソだと言ってくれ。
冗談なんだって……。
ムリだ……。
未だに信じられなくて、動揺している俺がいる。
クソッ、なんでこんなに体が震えんだよ。
寒さなんてまったく感じない。
「あ、電車来たよ……!最終だから、乗らなきゃ」
「…………」
『もしあと半年しか生きられなかったら、どうする?』
あれは、自分のことを言ってたのか……?
その時俺は言ったよな。
逃げて逃げて逃げて……逃げまくる。
そしたら、現実を受け入れられる気がするって。
バカだよな、俺は……。
なんもわかってなかった。
そう簡単に現実を受け入れられるわけがないのに。
菜都は必死に自分の気持ちを押し込めるように唇を噛み締めながら、ムリに口角を引き上げて笑っていた。
踏み切りが鳴り出して、ホームに最終電車がやって来た。
プシューと音を立てて開くドア。
だけど、足が棒のように固まったまま動かない。
「ごめんね……矢沢君のことは、好きじゃないから。バイバイ」
菜都に勢い良く背中を押され、俺の体は電車の中へと追いやられた。
『扉が閉まります、ご注意下さい』
ーープシュー
菜都だけをホームに残して閉まったドア。
「お、おい……」
待てよ、まだ話は終わってないだろ?
なに勝手なことしてんだよ?
「ごめんね」
走り出した電車の中から、最後に見た菜都はそんな風に言って眉を下げて笑っていた。