キミの笑顔が見たいだけ。
「やっぱりあの2人って付き合ってたんだね」
「ねー。矢沢君って、春田さんの前だとかなり優しい顔になるんだ」
「笑ったりもするよね」
「あたし、それ見てビックリしたー!」
あちこちで飛び交う色んな声。
廊下を歩くだけでたくさんの視線が注がれるようになったのは、3学期が始まってしばらく経ってから。
「菜都と矢沢君の噂すごいね」
「うー、できれば平穏に過ごしたいのに」
「あはは。矢沢君と一緒にいる限りはムリでしょ」
からかうようにニヤッと笑う花純。
花純には矢沢君との間に起こったことを全部話した。
そしたら、涙を浮かべて喜んでくれたの。
「よう、菜都」
「あ、セイちゃん!久しぶり」
移動教室の途中で、友達とじゃれ合いながら廊下を歩くセイちゃんと遭遇。
「お前、矢沢と付き合ってるってマジ?」
「もう、セイちゃんまでその話?」
「今、どのクラスでも噂になってるからな。で、どうなんだよ?」
「どうって言われても……」
なんて言えばいいの……?
「照れんなって、このヤロー」
セイちゃんはニヤニヤしながら肘であたしの脇腹をツンツン小突く。
「て、照れてないよー!セイちゃんこそ、彼女さんとはどうなの?」
「お、俺のことはどうでもいいだろ……っ!」
「いたっ」
軽くチョップを食らわされて、思わず顔をしかめる。
セイちゃんとのこういうやり取りも、もうすぐできなくなるんだね……。
そう考えたら、ちょっと切なくなった。
ホントのことを話すべきなのか……迷う。
「おい」
すると、背後から聞こえた低い声。
振り返るとそこには、不機嫌そうなオーラを放つ矢沢君の姿。