キミの笑顔が見たいだけ。


かと思えば、今度はまっすぐ真剣に見つめてくる。


夜景なんてもう目に入ってこない。


後ろにいる矢沢君のことで、いっぱいいっぱいだった。


「は、恥ずかしいから……離れて、矢沢くん」


息遣いを近くに感じて、冷静でいられなくなりそう。


ドキドキがハンパないよ。


「ごめん……ムリ」


ーーギュッ


後ろから手を握られて、思わず固まる。


「や、矢沢君……」


「晶斗って呼んで」


「え?」


「岡田のことは下の名前で呼んでんじゃん」


矢沢君の唇が耳元に寄せられて、嫉妬交じりのその声にドキドキが止まらない。


「菜都」


やめてよ。


そんなに色っぽい声で名前を呼ばないで。


胸が締め付けられて、おかしくなりそうだよ……。


矢沢君に触れたくてたまらなくなる。


そばにいてくれるだけでいいって思ってたのに、もっと、もっとって求めてしまう。


「あき、と……」


「ん?菜都、こっち向いて」


「やだ……ムリ」


「菜都」


「……っ」


窓ガラス越しに目が合って、とっさに下を向いた。


恥ずかしい。


恥ずかしすぎる。


「もうすぐてっぺんだぞ。見なくていいのかよ……?」


「ウ、ウソッ。見る」


顔を上げると、さっきよりも高い位置から広く夜景を見渡せた。


「綺麗……っ」


そう口にした瞬間、再びガタッとゴンドラが揺れた。


後ろにいたはずの晶斗が今度は隣にきて、同じように夜景を見下ろしている。


「マジで綺麗だな」


「う、うん……」


繋がった手から伝わる体温が心地いい。


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