キミの笑顔が見たいだけ。


出発までは毎日慌ただしく過ぎて行った。


特に何をするわけでもなかったけど、夕方には眠くなることが多くなり、朝まで目を覚まさないあたしをお父さんも海生もかなり心配してくれた。


体力が落ちているのをひしひし感じるけど不思議とツラくはなくて、出発の日が近づいてくるたびに元気になっているような気がする。


「いよいよ、明日だな」


お父さんが神妙な面持ちで呟く。


これまでたくさん支えて励ましてくれたお父さん。


お父さんは仕事を休んで、アメリカについてきてくれることになっている。


「そばにいてやれなくてごめん。けど、遠くから祈ってるから」


お父さんの隣で海生が眉を下げながらあたしを見下ろす。


不安で不安でたまらない、そんな表情だ。


「なんて顔してんの。あたしは大丈夫だから、受験勉強頑張ってね。ナオちゃんの家族に迷惑かけちゃダメだよ?」


なんとか笑ってほしくて、明るくニコッと微笑んでみせる。


海生はお父さんが帰ってくるまでの間、ナオちゃんの家でお世話になることになっている。


しばしのお別れ。


しんみりなんてしたくない。


だから、そんな顔しないでよ。


笑ってくれなきゃ嫌だよ。


「菜都じゃないんだから、迷惑なんてかけるかよ。アメリカに行っても、菜都は鈍臭いから心配だな」


仕返しと言わんばかりにイタズラッ子のような笑みを浮かべる海生。


笑ってくれたことにホッと胸を撫で下ろす。


「言ってくれるじゃん。ほんとはかなりの寂しがり屋なくせに」


「はぁ?俺が?そんなわけないだろ」


「またまたー!強がらなくていいから。あたしやお父さんがいなくても、泣いちゃダメだよ?」


「誰が泣くかよっ!」


「こらこら、喧嘩はよしなさい。まったく、いくつになってもお前たちは子どもみたいだな」


お父さんが呆れたように笑う。


< 180 / 222 >

この作品をシェア

pagetop