キミの笑顔が見たいだけ。
聞きまちがいじゃないなら……あたしの名前が聞こえたような。
「噂の2人が王子と姫のコスプレをして店に出れば、客も集まるし儲かると思うんすけど。だから俺は、春田さんと晶斗を推薦しまーす!」
ニヒッと可愛く笑う高垣君は、よからぬことを企んでいるイタズラッ子のような笑みを浮かべている。
や、やっぱり聞きまちがいじゃなかったんだ。
よりによって、なんであたしなの?
しかも、王子様が矢沢君だなんて。
そんなの……嬉しすぎる。
なんて。
あはは。
でもでも、矢沢君が引き受けるとは思えない。
目立つことは嫌いそうだし。
あたしだってお姫様なんか似合わないし、みんなも納得しないはず。
それに花純と矢沢君の方が絵になると思う。
でも……なんだか複雑。
「うん……いいんじゃないかな?話題の2人が客を引っ張ってくれるなら」
「そうだな。カフェは他にもいっぱいあるし、集客狙うなら話題性も必要だよな」
「うん、賛成」
「俺も」
「私も」
えっ……?
お姫様に立候補していた女子たちの中には残念そうにしていた子もいたけど、儲かると聞いて最終的にはみんなが納得し、賛成の声が上がっていく。
「だったら、リスとかよりも家来とか召使いが必要じゃない?」
「おー、いいね。リスやめるか。犬も」
次第に和気あいあいとし始め、当のあたしたちには関係なく話が進んでいった。
「ってわけで、春田さんと矢沢君。引き受けてくれますかー?」
「……はい、わかりました」
この状況。
うんと言わざるを得ないでしょ。
あたしだって空気を読むことくらいはできる。
それに、矢沢君とやれるなら嬉しい。
「矢沢君はどうですか?嫌なら他の人に」
「その必要はないでーす。晶斗、王子様はお前がやるよな?」
確信したようにニヤリと笑う高垣君。
矢沢君は不服そうにしながらも、小さくコクリと頷いた。