キミの笑顔が見たいだけ。
いや、でも、聞き間違いに決まってる。
だって、こんなところにいるはずがないんだから。
「菜都っ!」
「え……?」
今度は鮮明に聞こえて、キョロキョロ辺りを見回した。
すると、人の間をかき分けるようにして姿を現した声の主。
「晶斗、どうしたの?」
仕事なんじゃなかったの?
目をパチクリさせていると。
「俺も行く」
「え?」
「菜都ひとりで飛行機に乗せるのは心配だから、俺も行く」
「だ、大丈夫だよ。それより、仕事は?っていうか、なんでスーツ?」
ネクタイをピシッと締めて、黒光りする革靴でカッコよく決めている。
「あー……仕事は、やめた」
「えっ!?」
やめた?
なんで?
わけがわからなくてパニック状態。
「仕事引き継いだり、残務に追われてギリギリになったんだ」
コツコツと音を立てながら、ゆっくり近づいてくる。
珍しくスーツなんか着ているせいで、なぜかすごくドキドキした。