キミの笑顔が見たいだけ。


自分のことだとは思えなくて他人事のような感覚。


まるでドラマの中の出来事だ。


急に言われても、信じられるわけがなかった。


だって、そうでしょ?


いきなりそんなこと……。



「その腫瘍が脳を圧迫して頭痛を引き起こしているんです。直接組織を採取して行う生検が出来ないので、MRIの画像から診断することになるんですが」



画像から診断した結果がこれだってこと……?


診察室の空気が急に重苦しくなる。


なんだか息がしにくいや。


驚きのあまり声が出ないって、ホントにあるんだ。


衝撃的すぎて何がなんだか……わけが、わからない。


ドラマの中だとこの後余命がどうとか……そんなベタな展開が待ち受けている、はず。


予後が悪い……悪性って……よく聞く言葉だもんね。


先生の声は耳に入って来るのに、理解するのを脳が拒否してる。


詳しいことを聞き返す勇気は、持てるはずがなかった。


信じられないはずなのに、体が震えている矛盾。


心では恐怖を感じてる。


「菜都さんの腫瘍は脳幹というところにあるんですが、脳幹は脳の中でも生命維持に関わる非常に大切な部分で……ここに出来た腫瘍は手術で取り除くことが困難なんです」


「ちょ、ちょっと待って下さい。いきなりそんなことを言われても、私も娘も混乱して……何がなんだか。菜都の頭に腫瘍があるって、本当なんですか?」



隣からお父さんのうろたえる声がする。


紳士的でスーツがよく似合うお父さんの、こんな声を聞くのは初めてだ。


それだけで、事の深刻さがわかったような気がした。


石のように固まったまま動けなくて、握り締めた拳が震える。


ウソだと思いたかった。



「そうですね、申し訳ありません。ですが、本当のことです。信じられないかもしれませんが、一般的な経過を今からお話しますので、徐々に理解して下さい。一刻を争う大切なことですので」


「一刻を争うって……そんな」


やだ。


怖い。


聞きたく……ない。


聞いたら、どうにかなってしまう。



「呼吸機能や血圧の維持、心臓の動きや歩行、あらゆる神経系の働きが脳幹で行われています。手術ができないと言いましたが、手術することで脳幹を傷つけてしまうと、手術中に死んでしまったり後遺症が残って寝たきりになる可能性が非常に高いんです」


先生はあたしとお父さんの顔を交互に見ながら話し出した。


心臓がキリキリと鷲掴みされたように痛む。



「この腫瘍には放射線治療が効果的なんです。ですが、放射線治療にも限界があって、完全に腫瘍を取り除くことは出来ません。抗がん剤治療も、効果がないことが実証されています」



放射線も抗がん剤も効かない……。


手術も出来ないって……。


そしたら、あたしはどうなるの……?


死ぬ、の……?


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