キミの笑顔が見たいだけ。
どれだけぼんやりしてたんだろう。
気付くと辺りは真っ暗で、空に浮かぶ不自然なほど明るい春の月。
さあっと木の葉を掃いていく冷たい風が通り抜けた。
辺りには酔っ払いのサラリーマンやカップルたち。
何をする気にもなれなくて、さっきからカバンの中で震えているスマホを取り出そうって気すら起きない。
お父さん……きっと心配してるよね。
連絡しなきゃ。
そう思うのに、体が動かない。
動揺してる……?
ううん、まさか。
そんなはずはない。
だって……さっきのは冗談で。
きっと、何かのまちがいだから。
あたしが死ぬなんて……絶対にない。
立ち上がると足に力が入らなくて、ヨタヨタとよろけた。
鉛のように足が重たくて、鉄の棒を引きずっているよう。
橋の手すりに腕を置き、ちょうど真下にある交差点を見下ろす。
行き交う車や自転車をぼんやり眺めてみても、頭にちらつくさっきの出来事。
「はぁ」
あたし……ちゃんと生きてるのに。
手も足も……ちゃんと動くんだよ?
息だって出来てる。
それなのに……っ。
それからどれくらいの時間が経ったんだろう。
気付くと、人通りが随分減っていた。
今、何時だろう。
スマホを取り出すと、タイミングよく画面に映った『お父さん』の文字。
学校を出た時には80%だった充電が30%に減っていた。
お父さん……ごめんなさい。
「もしもし……」
「菜都か?やっと電話に出た……!今どこにいるんだ?」
ホッとしたようなお父さんの声を聞いた途端、喉の奥に熱いものが込み上げて来る感覚がした。