キミの笑顔が見たいだけ。


スマホの向こうから、お父さんの優しい声がする。


新しい治療法なんて、ほんとに見つかるの?


未来に希望なんて持てるわけないよ。


何も知らずにまだ笑っていたかった。


「もう、こんな時間だな。1人では危険だから……父さんが迎えに行くよ。どこにいるんだ……?」


「言いたく……ないっ」


「菜都……海生も心配してる」


「やだ……」


だって、帰ったら知ることになるでしょ?


現実を認めなきゃいけなくなるでしょ……?


怖いよ。


「おとう、さん……あたし、怖い。まだ……死にたく、ない」


「……っ」



静まり返ったかと思うと、今度はすすり泣く声が聞こえて来た。


お母さんがいなくてあたしたちが寂しい思いをしないように、お父さんはどんなに忙しくてもいつも明るく振る舞い笑顔を絶やさなかった。


優しくて自慢のお父さんが、強くてカッコ良いお父さんが……泣いている。


胸が痛くてどうしようもなくなり、ガマン出来なくて通話終了ボタンを押した。


スマホを無造作にカバンの中に突っ込むと、かろうじて立っていた足の力が抜けてその場に崩れ落ちる。


……死ぬ。


死ぬんだ。


……1年以内に。


来年の春には……あたしはもうこの世から消える。


希望なんて……ない。



「やだ……っ」



嫌だよ。


死にたくない。


まだまだ……やりたいことがたくさんある。


なんであたしが……どうして死ななきゃならないの?


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