キミの笑顔が見たいだけ。
出来るなら、何も知らなかった数時間前に戻りたい。
病院なんて来なきゃよかった。
そしたら、こんな思いをせずに済んだのに。
ほんの数時間前まで笑えていたのがウソみたいに、目の前が深い闇に覆われていく。
真っ暗な海の中に立っているような感覚。
出口なんてなくて、絶望しか見えない淀んだ世界。
どうしても信じたくなくて、これは夢なんだとそう思いたかった。
夢だ。
これは夢なんだ。
目が覚めたら、きっといつもの日常が待ってる。
悪い夢なら、早く覚めてよ。
お願いだからっ!
明日になったら何もかもが夢だったって、そう思わせて。
だけど……。
いつまで経っても夢から覚めることはなく、その場にただ崩れ落ちたままの自分がいるだけだった。
頬をかすめる冷たい春風がやけにリアルで、これが夢だなんてとてもじゃないけど思えない。
現実の出来事なんだ……現実の。
そう、現実。
あたしに残された時間は……あと1年。
帰ろう……。
ふらつく足取りでその場をあとにする。
ほとんど無意識に足を動かして、気付くと家の前に着いていた。
静かにそっと玄関のドアを開け、リビングに寄らずに2階の自室に直行した。
脳腫瘍……。
脳幹部に出来た腫瘍……。
スマホを出して文字を打ち込む。