キミの笑顔が見たいだけ。
*第2章*
知りたくない気持ち
過ぎて行く日々の中を精いっぱい生きることに必死で、前だけを見ながら余計なことは考えないようにした。
考えると、とてつもなく怖くなる。
「サボりか?」
屋上のフェンスの前でぼんやり景色を見下ろしていると、背後から誰かに肩を叩かれた。
「や、矢沢君……!」
「たまにフラッといなくなると思ったら、屋上に来てたんだな」
風になびく髪を手で押さえながら、フッと小さく笑う矢沢君。
「う、うん……屋上から見る空が好きで」
あたしの隣に立った矢沢君は、そこから同じように空を見上げる。
雲ひとつない綺麗な青空を見ていると、心が洗われるような気がしてスッキリするんだ。
だから何も考えたくない時や行き詰まったりした時は、よく足を運んでる。
「確かにいい天気だよな」
「うん。癒される」
視線を下に向ければ、3階にあるガラス張りの渡り廊下がよく見渡せて。
たまに人間観察もしてみたり。
ひとりでぼんやり過ごすのも悪くない。
「体調は良くなったのか?あんまり顔色良くないけど」
「あ、うん。大丈夫だよ。あたし、もともと体が弱くて」
「風強いし、これ、羽織っとけ」
矢沢君はブレザーを脱いであたしの肩にかけてくれた。
フワッと香る矢沢君の匂いに、鼓動がありえないほど飛び跳ねる。
「い、いいよ!矢沢君が風邪引いちゃう!」
「俺は体だけは丈夫だから。春田に風邪引かれて学校休まれたら、俺が困るし……」
「え?」
どうして……?
「あ、いや……えっと」
ポカンと首を傾げてみせると、矢沢君はバツが悪そうに視線をそらして頬を掻いた。
「ほら……文化祭の準備とか、色々忙しい時期だしな。お前が休んだら、色々大変だろ?それでだよ!別に深い意味なんかねーし」
うろたえまくって、しまいにはうつむいてしまった矢沢君。
その横顔は、少し赤い。
「あ、そうだね。もうすぐ文化祭だもんね」
あまり深く考えないようにして微笑み返す。
矢沢君の王子様姿、楽しみだなぁ。