キミの笑顔が見たいだけ。


冷たい風に吹かれながら、矢沢君のブレザーの温もりを肩に感じていた。


矢沢君の隣はなぜかすごく居心地が良い。


あーあ、このまま時間が止まればいいのに……。


屋上のフェンスを握る手に、ギュッと力が入った。


居心地が良いはずなのに、胸が痛いのはどうしてだろう。


「春田って、いつもぼんやりしてるよな」


「そう、かな?あ、でも確かに弟とかお父さんにも言われるかも」


「そういや、弟に借りた服まだ返してねーな。悪い」


「あんまり着ないやつだから、いつでもいいって言ってたよ」


「返す日連絡するから……連絡先教えて」


「え?」


ズボンのポケットからスマホを取り出して画面を操作し始めた矢沢君は、SNSのアプリを開いてあたしの前に差し出した。


「このアプリ、ダウンロードしてる?」


「えっと……うん」


「連絡するから、ID教えてもらえると助かる」


「……わかった」


ウソみたい。


矢沢君の連絡先を知ることが出来るなんて。


あまり人に知られたくないのか、クラスのほとんどが参加してるグループトークの中に矢沢君の名前は登録されてない。


だから、矢沢君の連絡先を知れるのはかなりレアなこと。


いいのかな?


あたしなんかが矢沢君の連絡先を知っちゃっても。


嬉しいけど……嬉しいけどっ。


緊張する。


ドキドキしながら、QRコードを読み取って連絡先を交換した。


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